こんにちは、小豆島のマルカツ製麺所の職人です。
2026年の2月、小豆島は一番寒い時期を迎えていますが、この寒こそが、私たちの素麺(そうめん)を美味しく鍛えてくれる一番の味方でもあります。
さて、お客様からよくいただく質問に「なぜ小豆島のそうめんは、ごま油を使うのですか?」というものがあります。
他の有名な産地では綿実油などを使うことが多い中で、なぜ私たちは高価な「ごま油」にこだわるのか。
結論から申し上げますと、それは「酸化に強く、小麦本来の風味を損なわずに、極限まで麺を細く伸ばすため」です。 あのごま油の香ばしい風味をつけるためだけではありません。実は、麺の「喉越し」と「コシ」の正体こそが、このごま油にあると言っても過言ではないのです。
この記事では、現場で粉にまみれる職人だからこそ知る、ごま油と麺の深い関係についてお話しします。これを読めば、次にそうめんを啜る瞬間、ふわりと香る風味が今までと違って感じられるはずです。
【職人の手帳】ごま油がもたらす3つの恩恵

忙しい方のために、私たち職人がごま油を使う理由を端的にまとめました。
- 酸化を防ぎ、鮮度を守る
- ごま油は油の中でも特に酸化しにくい性質があります。「古物(ひねもの)」として熟成させても油臭くなりにくいのはこのためです。
- 摩擦を減らし、切れずに伸ばす
- 手延べ製法は、麺を一本の長い紐のように引き伸ばします。ごま油が潤滑油となり、摩擦熱から生地を守りながら極細に仕上げます。
- 独特の「クリッ」とした歯ごたえ
- 茹で上げた際、油分が適度に抜けることで、麺の表面に絶妙な滑らかさと、小豆島特有の強いコシが生まれます。
小豆島の風土が生んだ「必然」の組み合わせ
そもそも、なぜ小豆島でごま油だったのでしょうか。
それは、小豆島が「そうめんの島」であると同時に、400年以上の歴史を持つ「ごま油の島」でもあったからです。
小麦の香りを邪魔しない、黄金色の守り神
私たちの工場に入ると、ふわりと優しい穀物の香りと、かすかに香ばしい油の香りが漂っています。
他の産地で使われる油も素晴らしいものですが、ごま油(特に私たちが使う太白ごま油のような純度の高いもの)は、小麦のデリケートな甘みを邪魔しません。
むしろ、茹でた時に湯気とともに立ち上る香りは、食欲をそそる上品なアクセントになります。「油っぽい」のではなく、「コクがある」。この違いは、一口食べていただければすぐに分かります。
職人の指先だけが知っている「生地の声」
手延べそうめん作りにおいて、油を塗る工程は非常に繊細です。
ただ塗ればいいというものではありません。その日の気温、湿度、そして「風」の具合によって、油の馴染ませ方を微妙に変えています。
五感で感じる「伸び」の瞬間
油を塗った生地(麺帯)を熟成させ、いざ引き伸ばす時。
私の指先は、生地の中でグルテンが整列し、ごま油がその間を滑らかに移動していく感触を感じ取ります。

- 音: 麺同士が触れ合う時の、サラサラという乾いた音にはまだ至らない、しっとりとした重みのある音。
- 手触り: 赤ちゃんの肌のように吸い付くけれど、決してベタつかない絶妙な湿り気。
もし安い油を使ったり、塗る量が適当だったりすると、伸ばす瞬間に「ブチッ」と嫌な振動が手に伝わります。ごま油だからこそ、絹糸のように細く、どこまでも長く伸びていけるのです。
【マルカツ製麺所だより】冬の寒風とごま油の仕事
私たちの工場(こうば)では今、まさに極寒の中での作業が続いています。
この時期のマルカツ製麺所では、「カド干し」という作業風景が見られます。
早朝、まだ暗いうちから仕込んだ麺を、屋外(または通気性の良い乾燥室)で冷たい風に晒します。
ここでごま油が良い仕事をします。冬の乾燥した風は、麺の水分を急激に奪おうとしますが、表面を薄く覆ったごま油の膜が、急激な乾燥によるひび割れ(肌荒れ)を防いでくれるのです。
まるで、冬の肌に保湿クリームを塗るようなものですね。
ゆっくりと時間をかけて、内側の水分を均一に抜いていく。この「ごま油による保護」と「寒風による引き締め」のバランスが、茹で伸びしない、あの強いコシを作り上げます。検品の際、光に透かして飴色に輝く麺を見ると、「ああ、今年も良い麺ができた」と安堵するのです。

よくあるご質問(FAQ)
お客様から寄せられる疑問に、職人目線でお答えします。
Q1. ごま油を使っていると、カロリーが高くなるのでは?
ご心配いりません。手延べそうめんに使われる油の量は、生地の乾燥を防ぐための最小限です。さらに、たっぷりの沸騰したお湯で茹でる際、表面の油分の多くはお湯に溶け出します。残るのは、麺の表面をコーティングする微量な油分だけで、これがツルツルとした喉越しの良さにつながります。
Q2. 匂いは気になりませんか?
私たちが使用しているのは、焙煎の強い茶色いごま油ではなく、素材の味を活かす質の良いものです。茹で上げる前は香ばしい香りがありますが、茹でた後は「小麦の風味を引き立てる程度」の上品な香りに落ち着きます。そうめんつゆとの相性も抜群で、喧嘩することはありません。
Q3. スーパーで売っているものと、何が一番違いますか?
一番の違いは「油の質」と「熟成の時間」です。
大量生産品の中には、コストを抑えるために安価な食用油を混ぜているものもあります。しかし、ごま油100%で作ったそうめんは、酸化臭がなく、時間が経っても味が落ちません。
もし、「本当のごま油の力」を感じてみたい、失敗のないそうめんを選びたいと思われるなら、私たちのような製麺所から直接お届けするものを一度試してみてください。工場で検品を終えたばかりの、香りが飛んでいない状態の麺は、スーパーの棚に並んでいるものとは別物です。
手前味噌ですが、マルカツ製麺所の直販サイトでは、私が自信を持って送り出せる、一番状態の良い麺だけをご用意しています。
【最後に小豆島のマルカツ製麺所から】

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
窓の外では、瀬戸内の海を渡ってきた冷たい風が、天日干しの麺を揺らしています。
私たちは明日も変わらず、この場所で、粉と塩と水、そしてごま油と向き合い続けます。
派手な宣伝はできませんが、ごま油の香りがふわりと立つ、黄金色のそうめんを一本一本丁寧に仕上げていくことだけは約束できます。
もし、あなたが「今日は本当に美味しいものを食べたい」と思ったり、大切な誰かに「間違いない味」を贈りたいと思われたりした時は、ふと私たちのことを思い出してください。
工場から出したばかりの、飾り気はないけれど、職人の技と小豆島の自然が詰まった一番美味しい状態の麺をご用意して、あなたをお待ちしています。
マルカツ製麺所の「現在のラインナップ」を見てみる