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監修者

記事の監修:マルカツ製麺所 代表・職人 三木 政人

マルカツ製麺所は、瀬戸内海・小豆島で100年以上、手延べ素麺ひと筋の製麺所です。明治23年(1890年)には「第三回内国勧業博覧会」で三等有功賞を受賞。厳選した小麦と清らかな水を使い、代々受け継いだ手延べ製法でコシと喉ごしにこだわった自家製素麺をつくり続け、産地直送で食卓に届けています。

【職人直伝】そうめんが固まる悩みにサヨナラ。茹でた後の「油」のひと手間で劇的に変わるプロの技

小豆島そうめん
【職人直伝】そうめんが固まる悩みにサヨナラ。茹でた後の「油」のひと手間で劇的に変わるプロの技

なぜ、家庭のそうめんはくっついてしまうのか?

マルカツ製麺所で麺生地に刷毛で食用油を塗る手延べそうめんの工程

「茹でたては美味しいのに、食卓に出す頃には麺同士がくっついて団子になってしまう」 「お弁当に入れたら、箸で持ち上がらないほど固まっていた」

そんな経験はありませんか?せっかくのそうめん、最後までツルツルと啜りたいですよね。

結論から申し上げます。そうめんが固まるのを防ぐプロの技、それは「もみ洗い」によるぬめり取りと、仕上げの「油のコーティング」です。

私たちマルカツ製麺所の職人は、製造工程でも「油」を巧みに使いこなします。油はそうめんの敵ではなく、喉越しを守る最強の味方なのです。この記事では、今日からすぐに実践できる「固まらない茹で方のコツ」と、職人だけが知っている「油と麺の深い関係」についてお話しします。

忙しい方のための「固まり防止」早見ヒント

ガラス鉢に盛った生そうめんと薬味のねぎ、オリーブオイルの瓶

時間がない時は、ここだけチェックしてください。これだけで劇的に変わります。

  • 基本の「もみ洗い」: 氷水で冷やす前に、流水でゴシゴシと(洗濯するように)ぬめりを洗い落とす。これが9割です。
  • 水切りは徹底的に: ザルにあげたら、麺を持ち上げて余分な水分をしっかり切る。
  • 仕上げの「油」: ボウルに移し、ごま油(またはオリーブオイル)を麺全体に少量まぶす。(1束あたり小さじ半分程度)
  • 盛り付け: ひと口サイズに丸めて盛る(「小分け盛り」)と、箸通りが良くなります。
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固まる前に負けている。茹でる段階の3つの鉄則

「洗い」と「油」の前に、実は茹でている最中に固まりやすさの半分は決まっています。ここでつまずくと、後でいくら洗っても取り返せません。まず守っていただきたいのは、次の3つです。

  • お湯はケチらない: 麺が鍋の中で踊るよう、たっぷりのお湯(麺100gに対して1リットル以上)で茹でる。私たち職人は、1人前に2リットルほど使います。
  • 差し水(ビックリ水)は禁止: お湯の温度が下がり、麺の芯まで火が通るのを邪魔してしまいます。吹きこぼれそうなら火を弱めてください。
  • かき混ぜすぎない: 箸でぐるぐるとかき混ぜすぎないこと。最初の数秒、麺同士がくっつかないように軽くほぐすだけで十分です。

茹で時間は袋の表示が基本です。私たちのオススメは「表示時間のマイナス30秒」で一度硬さを確認することです。余熱でも火が通るため、少し早いかな?くらいでザルに上げるのが、コシを残すコツです。

職人が教える、冷めても美味しい「油」のマジック

そもそも、なぜ固まるのか?(ぬめりと乾燥の戦い)

そうめんの表面にはデンプン質が含まれており、茹でるとそれが溶け出して「ぬめり」になります。このぬめりが残ったまま放置すると、接着剤のように麺同士をくっつけてしまうのです。

まず大切なのは、茹で上がった直後の「もみ洗い」です。 私たち職人がまかないで食べる時も、ここだけは手を抜きません。流水の中で、麺同士をこすり合わせるように洗います。「ジャッ、ジャッ」と水と麺がぶつかる音がするくらい、しっかりと。表面のぬめりが取れ、指先で触れた時に「キュッ」と締まる感触があれば合格です。

麺の「肌」を磨く作業だと考えてください

「そうめんは繊細だから、優しく扱わなきゃ」と思っていませんか? 実は、それは逆です。特に私たちマルカツ製麺所のような「手延べそうめん」は、グルテンの繊維が縄のように強く結びついているため、多少手荒に扱っても切れることはありません。

茹で上がった直後の麺は、表面が糊(のり)状のデンプンと、製造時に使った油で覆われています。これを落とさずに食べると、口当たりが悪く、時間とともに急速に味が落ちていきます。「家で茹でると、どうしても少し粉っぽい」と感じる方の原因は、たいていここにあります。茹で時間ではなく、洗いが足りていないのです。

流水の中で、両手をすり合わせるように「拝み洗い」をするか、ザルに押し付けるようにして洗ってください。「キュッ」と麺が引き締まる感触が指に伝わってくるまで。このひと手間が、麺の表面を磨き上げ、あの美しいツヤを生み出すのです。

五感で楽しむ「冷たさ」の魔法

美味しいそうめんには「温度」も欠かせません。 洗い終わった麺を、最後は必ず氷水で「キュッ」と締めます。

職人の私たちでさえ、真夏にこの作業をすると指先が痺れて痛くなるほどです。しかし、この冷たさが麺の組織を収縮させ、噛んだ瞬間に「パツッ」と弾けるような歯ごたえ(コシ)を完成させます。

食卓に出した時、器から立ち上る冷気と、口に入れた瞬間の清涼感。そして、噛み締めた後に鼻に抜ける小麦の甘い香り。これらが揃って初めて、そうめんは「ご馳走」になります。

茹でた後に「油」をまとう技術

しっかりと洗っても、時間が経てば麺は乾燥し、再びくっつこうとします。そこで活躍するのが「油のコーティング」です。

パスタを茹でた後にオリーブオイルを絡めるのと同じ理屈ですが、そうめんの場合は「香り」も楽しみの一つになります。

  • ごま油: 香ばしさが食欲をそそり、コクが出ます。ぶっかけや中華風アレンジに最適です。
  • オリーブオイル: ここ小豆島の名産でもあります。フルーティーでさっぱりとした仕上がりになり、サラダそうめんによく合います。

方法は簡単です。しっかり水気を切った麺をボウルに入れ、油をたらして手で優しく馴染ませるだけ。これだけで、麺一本一本が薄い油膜で守られ、数時間経ってもパラリとほぐれる状態をキープできます。お弁当に入れる際は必須のテクニックですね。

「梅干し」でコシが変わる

「そうめんを茹でる時に梅干し?」と驚かれるかもしれませんね。 実はこれ、私たちマルカツ製麺所の人間も太鼓判を押す、理にかなった裏技なのです。

日本の水道水は、一般的に中性から「弱アルカリ性」であることが多いのですが、実は小麦粉に含まれるデンプンやグルテンは、アルカリ性のままだと少し溶け出しやすく、コシが弱くなりやすい性質を持っています。

そこで、お湯に梅干しを1〜2個入れます。 すると、梅干しに含まれるクエン酸がお湯に溶け出し、水質が「弱酸性」へと変化します。この酸性の力が麺の表面をキュッと引き締め、デンプンの流出を防いでくれるのです。

結果として、「外はツルツル、中はモチモチ」という、そうめん本来の食感が生まれます。  梅の味や匂いが麺に移ることはありませんので、ご安心ください。

生麺は水分量によって茹で上がりが早いため、表示時間の30秒前くらいから一本食べてみて、芯がなくなった瞬間がベストな引き上げ時です。

【職人の声】私が家で茹でるときは、この4つだけです

お客様から「職人さんは家でどう茹でているんですか」と聞かれることがあります。特別なことは何もしていません。いつもやっているのは、この4つだけです。お湯は2リットルくらい。火加減は強め。茹で上がったら、しっかりもみ洗い。そして、しっかりと水切り。

お湯をたっぷり使うのは、麺を泳がせて温度を下げないためです。火は弱めません。洗いは「優しく」ではなく「しっかり」。ここで表面のぬめりを落としきらないと、後で必ず固まります。最後の水切りも、面倒でも手を抜かないでください。水が残っているとつゆが薄まり、麺同士もくっつきやすくなります。

難しい技術はいりません。この4つを守っていただければ、家でも製麺所で食べるのと同じそうめんになります。

【マルカツ製麺所だより】生地の中に生きる「油」の記憶

マルカツ製麺所で渦状に巻かれた手延べそうめんの生地

ここで少し、私たちマルカツ製麺所の工場の話をさせてください。

実は、手延べそうめんというのは、茹でる前の「作る工程」ですでに油を使っています。この工程を「油返し(あぶらかえし)」と呼びます。

早朝5時、まだ外が真っ暗な工場内。小麦粉と塩水を練り上げた生地を、私たちはひたすら引き伸ばしていきます。この時、生地が乾燥して切れないように、表面に「ごま油」を塗るのです。

機械で作るそうめん(機械麺)には、通常この工程がありません。油を使わないので、どうしても表面がザラつきやすく、茹でた後にくっつきやすい傾向があります。

一方、私たちが作る「手延べそうめん」は、ごま油を塗りながら、ねじって、鍛えて、また休ませて…を繰り返します。こうすることで、麺の芯まで油が浸透し、あの独特の「ツルツルとした舌触り」と「強いコシ」が生まれるのです。

工場の中は、熟成中の麺の香りと、香ばしいごま油の香りが混ざり合い、なんとも言えない食欲をそそる空気に包まれています。 お客様が食べる時に「油」を足して美味しくなるのは、いわば麺が生まれた時の記憶(油との相性)を呼び覚ましているからなのかもしれません。

よくあるご質問

読者の皆様からよくいただく疑問にお答えします。

Q:油をかけると、つゆの味がぼやけませんか? A: かけすぎなければ大丈夫です。1人前につき小さじ1/2〜1杯程度を目安にしてください。むしろ、ごま油のコクがつゆに移って、いつもより美味しく感じるというお声も多いですよ。

Q:お弁当に持っていく時、麺つゆはどうすればいいですか? A: 麺に直接かけず、別容器(スープジャーや小さなボトル)で持っていくのが正解です。麺に油を絡めておけば、食べる直前につゆをかけるだけで、驚くほどスムーズにほぐれます。

Q:茹で時間は袋の表示通りでいいのですか?

A: はい、基本的には表示通りで構いません。ただし、私たちのオススメは「表示時間のマイナス30秒」で一度硬さを確認することです。余熱でも火が通るため、少し早いかな?くらいでザルに上げるのが、コシを残すコツです。

Q:茹でた後、保存はできますか?

A:基本的には「茹でたて」が命ですが、余ってしまった場合は水をよく切り、少量の油(オリーブオイルやごま油)を絡めて冷蔵庫へ。翌日は炒め物(ソーメンチャンプルー)にすると、生麺特有のモチモチ感が活きて大変美味しいですよ。

Q:スーパーの安いそうめんでも、この方法で美味しくなりますか? A: はい、茹で方と油の工夫でかなり改善されます。 ただ…手前味噌で恐縮ですが、もし「油を使わなくても、驚くほどツルツルしている」体験をされたいのであれば、ぜひ一度「手延べ」と書かれたそうめんを試してみてください。

私たちマルカツ製麺所の麺は、先ほどお話しした通り、製造工程で良質なごま油を使い、職人の手で極限まで薄く延ばして作られています。そのため、茹で上がりの表面の滑らかさが段違いです。「麺そのものの力」で、固まる隙を与えない。そんな体験を、ぜひ一度味わっていただければ幸いです。

最後に小豆島のマルカツ製麺所から

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

小豆島の冬は、瀬戸内海とはいえ、冷たい風が吹き抜けます。 私たちはその寒風の中で、生地の機嫌を伺いながら、毎日麺と向き合っています。 「今日は少し乾燥しているな」「湿度が低いから、乾燥時間を変えよう」 そうやって手間暇かけて送り出したそうめんは、茹でて洗った瞬間の、指に伝わる弾力が違います。

もし、ご家庭での工夫だけでなく、「素材そのもの」の美味しさに触れたくなった時は、私たちのことを思い出してください。

派手な包装ではありませんが、工場から出したばかりの、一番美味しい状態の麺をご用意してお待ちしています。

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